商品開発担当の山田義雄は、年間で三ヵ月以上もの間、北海道を訪れています。「お互いの顔が見えて、初めていい仕事ができる」と、毎回、各地の漁協などを訪ねてまわっているのです。今回やっとご紹介できた「地撒きほたて」もそんな素材探しのなかで出会った素材です。

椒房庵にふさわしいほたて貝には条件があります。まずは、北海道産であること。とくにオホーツク海は、好漁場条件に欠かせない栄養塩が、シベリアの大森林から流れ込み、流氷下にプランクトンが盛んに繁殖します。春、その豊富なプランクトンを求めて多くの魚が集まってくるのです。

また、生育方法は、より自然に近い状態で育つ「地撒き（じまき）」と、貝の耳に穴をあけてつるす「つるし養殖」に大別されますが、私たちが選んだのは、三〜四年経った頃の前者。「地撒き」のほたて貝は、生きるために自ら泳ぎ、口を開け、エサをとりにいかなければならないので、繊維質が太く、身も引き締まり、より濃厚な味わいの身に育つのです。

そして、ほたて貝の選別と出荷も欠かせない工程です。北の海を知り尽くした馴染みの漁師さんが丹念に選んだ良質なほたて貝を北海道から福岡まで直送してくれることに決定。みずみずしくて濃厚な味わいのほたて貝が手に入る条件がすべてととのったのです。

しかし、このすばらしいほたて貝を実はどのように調理・加工したらいいのか山田は悩んでいました。そんな時、地元九州の顔なじみのお寿司屋さんで、たまたまでてきたのがほたて貝。生の素材感を存分に生かしたシンプルな味付けは、従来のほたて貝の濃い味付けを、一瞬でくつがえす力を秘めていました。親しいご主人でしたので調理方法をお聞きし、今回の商品化のヒントにさせていただきました。